思いのほか声を上げて笑わされる記述も多く、全体的に軽妙洒脱なトーンであるものの、ある日ズドン!となんの前触れもなく「酒をやめよう」と思いたった筆者が、その考えがなぜ浮かんできたのかを「考える」という、深い心理考察についての著書でした。
大酒飲みに突然浮かんだ「酒をやめよう」という考え
町田 康(まちだ こう、1962年1月15日 - )は、日本の小説家、ミュージシャン。旧芸名は、町田 町蔵(まちだ まちぞう)。本名は同じ漢字で「まちだ やすし」である。
大阪府堺市出身。1981年、バンド「INU」のボーカリストとしてアルバム『メシ喰うな![1]』で歌手デビュー。同バンド解散後もさまざまな名義で音楽活動を続けるかたわら、俳優としても多数の作品に出演。1996年には処女小説「くっすん大黒」で文壇デビュー、2000年に小説「きれぎれ」で第123回芥川賞受賞。以後は主に作家として活動している。
Wikipediaより
ドクターストップがかかったわけでもない、飲酒は健康に悪いからと理論的に考えて酒をやめる決意をしたわけでもない、本当にただただ「酒をやめよう」という考えが浮かんできた、そして当の本人がその考えに困惑して、何故その考えがひらめいたのかを考える、というところから本書は始まっています。
最初の数ページを読んだだけで、私は「とてもソーバ―キュアリアスっぽい!」と思いました。
なぜならソーバーキュリアスとは「しらふでいることに興味津々」という意味であり、飲酒が身体に悪いからとか、精神的によろしくないから、という理屈でやるものではないからです。
ただただ、理由もなく、「お酒を飲みたくないから飲まない」、それこそがソーバーキュリアスです。
このあたりが、小田嶋隆さんの「上を向いてアルコール」とは全く逆のアプローチで、大変興味深いです。
誤解を恐れずに言うならば、著者は霊的な次元上昇をしたのではないかと思いました。私はどこで読んだのか忘れてしまったのですが、以下の主旨のことを聞いたことがあり、なるほど、と思ったことがあります。
霊的に発展途上にある人はお酒を飲んだりタバコを吸ったり肉を食べますが、学びが進んできて次元が上昇していけば、自然にお酒を飲めなくなるしタバコも吸えなくなるし肉も食べられなくなっていく
ベジタリアンが肉食をしないのは、環境問題だとか動物愛護だとか、いろんな理由がつけられるのですが、突き詰めると「なんとなく食べたくない」という感情がベースにあるのだと思います。
そうじゃないと、「(正義のために)肉を食べることを我慢する」ことになってしまい、それはそう続けられるものではないからです。
それと同じで、ソーバーキュリアスも「お酒は我慢してやめよう」と思うのではなく、「お酒、もういいや」と腹落ちして思えるところからスタートするのです。
「アミ小さな宇宙人」(エンリケ・バリオス著)にも、未来からやってきた宇宙人アミがお肉を食べないということを言っています
肉なんか食べないよ。考えただけではき気がする。罪のないかわいいニワトリやブタやウシを殺して食べるなんて!なんてざんこくなんだろう・・・・・
アミ小さな宇宙人
リンク
髄脳のええ感じ?
筆者は、酒をやめたメリットとして以下のように挙げています。
②睡眠の質の向上
③経済的な利得
ただし、禁酒の利得は上記の3つにとどまらないと筆者は言います。ここに「髄脳のええ感じ」というのが加わると言います。
髄脳ってどこ?それって感じることができる器官なのだろうか?と思った私は調べてみました。
調べたところ髄脳とは「骨髄と脳」とのことでした。
つまり大脳とか、小脳とかを指しているのだと思いますが、これらの器官を意識して感じてみたことがなかった私にとっては、少し混乱しました。
しかし、以下の文章を読むと、少し言いたいことが見えてきます。
これは仕事をしているとき、或いは、なにかについて考えているときに実感するのだが、酒を飲んでいたときに比べて考えるひとつびとつのことが聯関するというか、ひとつのこととまた別のひとつのことがスコッと繋がったり、或いは、ひとつのことの、また別の一面に気がつく、といったことが脳髄において起こり始めた。
これはどういうことなのか、と脳髄で考えるに、やはり禁酒が関係しているのではないか。
乃ち酒漬けとなっていた脳髄から酒精分がなくなることによって、一部が乾燥してポロッと剥がれ、その下から瑞々しい新しい脳髄が生まれてきたのではないか。
しらふで生きる
私流に解釈すると、思考がクリアになって、理路整然としてきた、ということなのでしょう。
それはそうかもしれません、お酒を飲んだ後は、頭の中に霞がかかるような不快感を経験したことがありますので、日常的に飲み続けている人なら、「頭の中に霞がかかっている」状態が慢性化していたことは想像に難くありません。
このクリアになってくる感覚は、「ナチュラルでかつ最高に気持ちの良い状態」、つまり恍惚の状態なんだと思います。
著者はそうはいっていませんでしたが、「髄脳のええ感じ」という表現から、そういう思いを感じ取りました。
総括すると、①ダイエット効果②睡眠の質の向上③経済的な利得、の他に、④髄脳のええ感じによる仕事の捗り、が加わるとしています。
ただ、仕事の捗り云々というのはあとからつけたメリットであって、ここで言わんとしているのは頭の中がクリアになることで最高に気持ちいい状態になっていることなのだ、と私は思いました。
さらっと読めるわりにはあとからじわじわくる
軽妙洒脱な文体ゆえ、寝転がって、アハハハと読み終えてしまったのですが、さらっと読めるわりにはあとからじわじわくる良書です。
また、読むときの精神状態によっても受け止め方が変わるでしょう。ですから一度読んでまた読み返してみてもいいかもしれません。
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ソーバーキュリアスとは新しい価値観です
※アフィリエイト広告を利用しています ソーバーキュリアスの言葉の定義 あえてお酒を飲まない、しらふでいることを積極的に選択する人たちのこと、および、そうしたライフスタイルのことを「ソーバーキュリアス」 ...
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