ブックレビュー

【書評】「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本(垣渕洋一著)

2021-01-05

「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本、新しい時代を予感させる本でした。

アルコール依存症治療専門医の垣渕洋一氏

この本は「東京アルコール医療総合センター」のアルコール依存症治療を専門とする医師である垣渕洋一氏の書いた本です。

冒頭には「ソーバーキュリアス」というキーワードを引用し、日本ではまだ聞きなれない言葉ではあるものの、「飲まない選択」が世界的なトレンドになりつつあることについても触れています。

また、かつて「飲めないやつは仕事が出来ない」「飲み会に来ないやつは協調性がない(言われたことあります!)」などと、飲めない人や飲まない人は肩身の狭い思いをしていた時代もありました。

しかし、令和以降はそこに変化があり、その変化は加速していると筆者は言います。

「ひふみ投信」で有名な投資家の藤野英人さんが提唱する「ゲコノミクス」などの動きが、新しい価値観の象徴だというのです。
ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!

このように、冒頭から、新しい時代の幕開けを予想させるワクワクした内容でこの本は始まります。

お酒は嗜好品ではなく薬物である

のっけから驚かされたのが、お酒は嗜好品ではなく「薬物」であるという指摘です。

え?!なんだってお酒は嗜好品じゃないのか?と、思わず文章を二度見してしまいました。

アルコールは水、米、野菜、肉や魚のように、生きるために必須なものではないので、食品ではありません。
その人の好みで、飲んでも飲まなくてもよいから嗜好品と理解されることが多いですが、脳と体への影響を考えるとれっきとした「薬物」です。
「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本(垣渕洋一著)より引用

確かに、お酒は生きていくうえで摂取しないでもいいものだということはわかっています。

ですから、チョコレートやキャンディーのような嗜好品だと思っていたのです、そう思っている人は多いでしょう。

しかし、お酒が薬物であるならば、コンビニエンスストア等でいつでも手に届くところに売られている、しかも中にはものすごく安価なものもある、というのはおかしな話です。

お薬なら医師の処方箋が無いと買えないはずですよね???

令和以降は、お酒もその「立ち位置」を変えることになるのでしょうか。

常識の急激な変化

この本を読んでいて「あ!」と気づかされたのですが、たばこに関する常識が変わったのは2000-2020年の20年の間である、ということです。

そういわれてみれば、新幹線でも飛行機でも喫煙が可能な時代がありました。

そしてオフィスでも自席でタバコを吸えた時代があるのです!

今の若い人はご存じないかもしれませんが、私の記憶だと、1990年代の終わりぐらいまでは、上場企業でもオフィスの自席に灰皿を置いてタバコを吸う人が居ました。

もちろん会議室で吸う人もいました。それなのに、気が付くと、令和の今となっては「オフィスでの喫煙などありえない」こととなっているのです。たった20年で大きく変わりました。

ですから、著者は言います、飲酒に関する常識も近い将来変わるはずだと。

その根拠として、国や世界が「禁酒」に向けて動き出していることを挙げています。

  • 2013年12月「アルコール健康障害対策基本法(アル対法)」が成立
  • (アル対法に基づいて)2015年「アルコール健康障害対策推進基本計画」が決定
  • 2016年度より都道府県による施策が開始

まさしく、私たちの孫の世代では、『俺らの爺ちゃん婆ちゃんの時代には、日常的に酒を飲む人がいたんだってよ!』『へー!』という会話がなされることが、十分にあり得る、ということになります。

なんだかとってもワクワクしませんか?

ハイリスク飲酒者は手の震えた廃人ではなく普通に社会生活をしている人

お酒に依存しまう病気は、いまは「アルコール依存症」と呼称しますが、かつては「アルコール中毒」略して「アル中」と言われていた時代がありました。

アル中のイメージというと、みすぼらしい身なりをした手の震えた、半ば廃人のような人をイメージしてしまいます。

しかし筆者は、依存症の一歩手前に居る「ハイリスク飲酒者」は「普通に社会生活を送っている人」がほとんどだと言います。

普通のスーツ着た市民

つまり、きちんとした身なりをして、こじゃれたレストランやバーで、ワインに関するうんちくを語っているインテリな紳士の中にも、「ハイリスク飲酒者」が潜んでいる、ということなのです。

何かの拍子に、グレーゾーンからブラックゾーンに足を踏み入れる可能性のある人、それが予測では国内に900万人もいるというのですから、深刻です。

アルコール依存症は精神科の領域

私には家族や親しい友人の中に、アルコール依存症の人はいません。

なので、どういう理由で問題飲酒をしてしまうのかが完全には理解できていないと思います。

しかし、限度を超えて飲酒をしてしまう背景には、なにか大きな闇、あるいは痛みや苦しみがあるのでないか、と想像することはできます。

アルコール依存症から回復するときに隠れていた問題が浮上する

この本を読み進めていてショックだったのが、アルコール依存症から回復期にある患者さんが、「アルコールが抜けて思考がクリアになるにつれ、隠れていた問題がガンガン迫ってくる」と表現していることです。

しかも脳がクリアになると、霧が晴れるように自分のいろいろな状況や問題が見えてきます。
その心象風景を「隠れていた問題が、突如、地平線にポッカリ表れ、ものすごい勢いで迫って来る」と表現した患者さんもいました。
「そろそろ、お酒やめようかな」と思ったときに読む本

独りでは抱えきれない重荷がそこにはあり、そこから逃げるために飲酒をしていた、とも考えられます。

とても胸が締め付けられる思いになりました。

そうですよね、理由がないのに問題飲酒を繰り返すわけがありません。

そこには深刻な本人の課題が隠されているのでしょう。

偏見や差別の問題

アルコール依存症は、精神科で扱うべき病であるということが理解できました。

しかし、巷では、飲み過ぎるのはその人の意思が弱いからだ、と考えている人も多いのではないでしょうか?

こうした偏見にさらされ、「ダメな奴」というレッテルを貼られてしまえば、さらにアルコール依存症患者は、病状が悪化するであろうことは想像に難くありません。

必要なのは、手厚いサポートなのだと思います。

そのサポートにも、医療的なサポートや社会的なサポート、いろいろあるのでしょう。

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ノンアルコールドリンクは△

私が、ソーバーキュリアスをテーマにしたサイトを立ち上げるにあたり、ソーバーキュリアスに関するどのような情報がネットにあるのか?と調べました。

「ソーバーキュリアス」というキーワードと共に、「アルコールの入っていないカクテルをクールに楽しむ!」という主旨の記事や、「ノンアルコールバー」を紹介した記事がいくつか見つかりました。

それに対しては、悪くはないのだけれど・・・とモヤモヤしたのです。

Motoko
お酒から離れた人生を送ろうとしているのに、わざわざお酒をイメージさせる飲み物を飲んだり、飲酒をイメージさせる場所にわざわざ行くの?なんで?

と思ったのです。

この本の著者は、半年以上禁酒に成功していた人が、このようなノンアルコールドリンクを飲んだところ、かつての飲酒欲求が呼び覚まされてしまい、また元の飲酒者に戻ってしまった、という例を挙げていました。

やはり、そうか!と思いました。

定年後にやることが無くてアルコール依存症になってしまう人

信じがたいのですが「定年後にやることが無くて昼間から飲んでいるうちにアルコール依存症になってしまう人」も一定数いるようです。

この文章を読んだときに不覚にも涙がこぼれそうになりました。

自由に過ごせる時間を手に入れたのに、やりたいことが無いっていったいなんなのだ?!と。

自分と向き合ってこなかったツケだ、とか、自分のやりたいこともわからないなんて情けない、と批判することは簡単でしょう。

でも、「自分は何が好きで、何がしたいのか?」ということを立ち止まって考えることすらできなかった事情があったのかもしれません。

私個人的には、あれもこれもやりたいことが多すぎて、時間が足りなくて困るぐらいで、だから、二日酔いで思うように動けない時間がもったいないと思い始めました。

それで、付き合いで飲むことをやめ、「飲まない人生」を選択しました。

しかし、全ての人が私のような境遇にあるわけではなく、自分が何をしたいのかもわからなくなるぐらい、自分を犠牲にする人生を選択せざるを得なかった、何か深い事情のある人もいるのではないかと想像しました。

そうした人たちへ、社会的なサポートは必須になってくるでしょう。

最初わくわく最後はしんみり

最初は、新しい時代の幕開け?!とワクワクしながら読み始め、最後はアルコール依存症に至るまでの「隠れた問題」について思いを馳せ、かなりしんみりしました。

専門医の書いた本ということもあり、非常にロジカルで納得感のある内容です。

ソーバーキュリアスか否かに限らず、次世代の社会を考えるうえでも読んでおいて損はない一冊です。

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